2010年10月13日水曜日

非正規レジスタンス

IWGPの新刊を読み終えた。
作品はオチが読めたものばかりだった。
池袋のマコトは大人になって、大人の対応を覚えたようだ。

ここで作品の悪口を言うつもりはない。
文学(?)の中の人間だって成長しなければリアルに共感はできない。
でも、職業柄オチが読めてしまうのは作者が私のいる業界に足を踏み入れ過ぎた感はある。
それも薄っぺらな表面的なところで。

福祉を題材に取り上げるのは悪いことではないし、大いに取り上げて頂きたいと思う。
ただ、前回ここで書いたように『正確な取材』をして頂きたい。

母子福祉はそこまで親切ではないし、現状は自立支援施設もすぐに入れる訳ではない。
(虐待児童増加で空きがない)
DVも根が深く、そんなに簡単に解決できるのならマコトが10,000人いて欲しい。
日本の生活保護制度はもう限界を迎えている。
ネカフェ難民問題と派遣問題は解決済みという意識で作品を書いたのならば、それは間違いだ。
派遣会社の支店長が言うように、健康な人間ならば親に謝って郷里に帰るのが1番いい。
家庭でのイザコザは貧しさの前では塵のようなものだからだ。
生活保護制度は世帯単位が基本だから、住所さえあれば1人世帯でも受けられる。
受けられるが、年々国費は削減されている現状を書いていない。
ネカフェ難民が生活保護を申請したおかげで昨年の生活保護世帯は190万世帯増加した。
本来は親兄弟姉妹親類縁者が誰1人いない世帯を1人世帯として想定して作られた法律だから、親兄弟姉妹親類縁者がいる人は受けられない制度だ。
これが柔軟に対応するということなのか?
私が親にイヤイヤ頭を下げたのは昔の話しになってしまうのか?

今の人の貧しさなんて、本当の貧しさではない。
作者はそれを知らない。
・・・と思う。
1泊1,000円のネカフェ代は1ケ月3万円になる。
東京で3万円は安いのかもしれないが、地方だと安アパートを借りられる値段だ。
1回のシャワーに300円?
安アパートを借りれば水道代とガス代の方が安い。
ゴミをあさって何が悪い?
家はあるけどゴミはあさる生活をしている私達親子はどこに分類されるの?
食べるのを我慢しているのは難民だけではない。
食べられない病気だから食費が安くて助かっているけれど、エンゲル系数は50%だ。

私が母子家庭になった時に相談員の方がおっしゃたことは「まず家」。
「屋根がある所で子育てをしなさい」と言われた。
「家さえあれば節約できるところはいくらでもある」とも言われた。
今も本当に感謝している方のその言葉は正しかったと思う。
食べるのさえ苦労した別居時代と比べて、食べるのだけは何とかなったからだ。
その別居時代でさえアパートは借りた。
家賃も税金も保険料も全部支払った後に残されたお金で何とかなった。
何とかした。

働く場所がないのは国の責任だと私も思う。
思うが、まず自分の親に頭を下げることができない人間は運にも見離されると思う。
私は親姉妹に頭を下げて家を借りることができたし、子どもも障害児ということで保育所にもすんなり入れた。
月4万円の養育費が支払われる間に就職も決まった。
(決まったとたんに養育費が途絶えたのは偶然だろうか?)
そう、1月の生活費が4万円だったのだ。
それで親子3人暮らしていたのだ。
母子福祉の援助があったとしてもだ。
(当時は児童福祉手当の他に医療費が無料だった)
唯一の娯楽がテレビという、いつの時代かわからない生活をしていたのだ。
(今もあまり変わらない生活・・・)
もちろん、家を借りた後は親姉妹に一切援助してもらっていない。
頭を下げたのは、保証人と引越し費用・初期費用を出してもらうだけのことだった。
それでも私は一生懸命返せるお金は返済したし、足りない部分は体で支払ったつもりだ。

生活保護は最後の手段と決めていた。
そう、あくまでも「手段」なのだ。この国は。
働ける体であれば、保護中でも就職活動をせっつかれる。
ギリギリの生活費しか受け取れないのに、その中から履歴書代や証明写真代、面接に行く為の交通費全てを出さなければいけないのだ。
ネカフェ難民とどこが違う?
医療費は出してくれるが、1つの病気で1ヶ所しか病院に行けない。
セカンドオピニオンなんていう自由はない。
家賃は出してくれるが、共益費は保護費の中にはない。
生活保護制度は本当に最低限の生活を保障するだけなのだ。
保護世帯は水道光熱費と食費の節約をしなければ生きていけないレベルだ。
1週間に1回しかお風呂に入らない。
カップ麺なんて贅沢品は食べない。
病気で体が動かなければ病院にも行かない。
命が本当に危ない時にしか救急は使えない。
(それでも救急に行かずに命を失くした人を知っている)

ネカフェ難民がどうしたと言うのだ。
非正規雇用(日雇い)が何だと言うのだ。
昔は「あいりん地区」のように日雇い労働者の町があって、お互い助け合って生き延びてきた人達がいる。
健康保険がないということは、作中で彼らが見下しているホームレスと一緒だ。
ホームレスとは直訳で「家がない」ではないか。
マコトのやり方が正しいかどうかではない。
ネカフェ難民の子に怒っている。
非正規労働で働いている子に怒っている。
誰に取材したのかは知らないが、作者の表現通りであるならば、「努力」や「自己責任」という言葉の意味を取り違えている。
「自己責任」とは、自分で責任をとれる範囲のことを言うのであって、自分で責任がとれない範囲のことは言わない。
それは他者だったり、国だったりする。
キレて何が悪い?
キレないと心が病んでしまう時だってある。
1度心が病んでしまうと本当に一生生活保護の下で生きなければならなくなる。
焼肉が食べたいだと?
焼肉なんて超贅沢は数年に1回だ。

マコトは自分も社会の底辺だと言う。
今まで作品を読んでいて私は1回もそう思ったことはない。
マコトのお母さんの気持ちと努力と根性を想像すると、マコトが底辺だと言うのはおかしい。
店がある。
一生困らない店がある。
生活に困っても売れる店がある。
実家の店番で年収200万円は多いと思う。
家賃、食費、水道光熱費、店の経費は全部タダということになる。
マコトのお母さんが経理を受け持っているのなら甘すぎだ。
子どものお小遣いに年に200万円もやるのだから。
それだけで十分中流階級家庭だ。
いや、月に16万円もお小遣いがあるのは中流でもなかなかいない。
(母親に頼らずに純粋にマコトが店を経営しているのならば話しは別だが)
そういうことに気づかないところはまだ子どもということか。

今回の作品は全部駄作だ。
読んでも若い人達のエネルギーが伝わってこない。
爽快感がない。
私にはあまりにもリアル過ぎて、現実に近過ぎて、オチが読めてしまっておもしろくなかった。
石田衣良の作品とは思えないくらい。
美丘が傑作なのは確かだが、ドラマは最後まで観なかった。
全然別の作品だったし、1つのドラマとしては私のツボにははまらなかった。
今回の作品はそのドラマと同じ感覚がする。
省略し過ぎている。
リアルに近いが詰めが甘い。
マコトにはやはり警察沙汰が似合うと思う。
正確な情報を書けないのであれば福祉にはこれ以上触れないで欲しい。
マコトと福祉は別世界でいて欲しい。

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